ピンク映画界初の女性監督、"性=愛"をぶったぎる【浜野佐知 INTERVIEW】


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観客の大半が男性というピンク映画の世界において、これまでにもっとも多くの作品を世に送り出しているのは、女性監督の浜野佐知さんだということをご存じだろうか? かつては女性が皆無だった業界ゆえ、度重なる弾圧も経験したという彼女が、今なお第一線で活躍し続ける理由に迫った。

男のために股を開くのではなく、自ら欲情する女を撮りたかった

――ピンク映画を撮るようになったいきさつを教えてください。

私は子どものころから映画が大好きで、中学・高校時代には映画館に通い詰める日々を送っていました。そんな中、日本映画に登場する女性たちがひどくステレオタイプなことに違和感を覚えるようになったんです。

聖母のような母親だとか、3歩下がって夫に従う妻だとか、父親の言うことは無条件に聞く素直な娘だとか。セクシャルな女性はすべて愛人で、しかもそいつは悪い女なんです(笑)

一方、同時期にヨーロッパから入ってきたヌーベルバーグ(1950年代にフランスで始まった自由奔放な映画作りの動き)の映画に登場する女性たちはみんなキャリアを持っていて、赤いコートに赤いハイヒールなんて身につけててかっこいいわけですよ。同じ頃の日本映画に登場する女性でキャリアがあるのなんて、水商売のママさんくらいでしたから、えらい違いですよね。

それで、なんでこんなに女性の描き方が違うんだろう? って考えたところ、日本映画界に女性監督が一人もいないことに気付いたんです。つまり、男の監督しかいないから、男にとって都合のいい女性しか描かれていないんだろうと思ったんです。

であれば、映画が大好きで映画ばかり観て育ってきた私自身が、女性目線できちんと女性を描いてやろうと思ったのが、映画監督を目指したきっかけです。

ところが、当時、日本には映画学校なんてものは存在しない上、海外旅行も自由化されていなかったから、外国の映画学校に学びに行くこともできないわけです。

じゃあどうすれば映画監督になれるかといったら、撮影所を持った日活・大映・東宝・松竹・東映のうちいずれかの演出部に入り、助監督から修行して監督に昇進すること。これが唯一の方法だったんです。しかしその撮影所の就職条件は「大卒男子」。最初から女性監督になる道は閉ざされていたってわけ。

ところが、1962年にピンク映画という新たなジャンルが誕生して発展していったことで、大卒じゃないけど映画を撮りたい男子なんかも一気にここに群がるようになったんです。

学生運動全盛期で、若松孝二監督が反体制を旗印にピンク映画を撮ってたような時代ですね。もちろん女性スタッフなんて一人もいませんでしたよ。だけどここでしか勉強できないのであれば、と飛び込んだことがきっかけで今に至ります。

――排他的な扱いを受けることはありませんでしたか?

当時はパワハラとかセクハラとかの言葉が存在しなかったので、自分が今どんな目に遭ってるかを言葉で言い表すことはできなかったんですけど、そりゃあ大変でした。

ロケなんかに入ると、夜中に酔っ払ったスタッフは犯しにくるわで(笑) 現場で寝るときは包丁抱いてましたから。襲われたらそれ持って暴れるんです。そんなこと日常茶飯事でしたよ。でも、女に対する性的興味から手を出してくるわけではないんです。どういうことかというと、女が邪魔だったんですよ。

でもね、男にいじめられる分にはこっちも覚悟してたから耐えられますけど、一番堪えたのは女優からのいじめですね。やっぱり、ヌードになってセックスシーンを演じているところを同性には見られたくないわけですよ。本当に、スタッフには排除されそうになるわ女優にはいじめられるわの毎日でしたね。

――それでも続けたいと思ったのはなぜですか?

そりゃもう、いじめられればいじめられるほど「こんちくしょう!」ですよね(笑) 辞めたらそれで終わりですから。セックスを正面から描けるピンク映画で、私にしか撮れない作品を撮りたい! 男のために股を開く女ではなく、自ら欲情するような女を描くんだ! と心に決めていましたから。

心も身体も裸になるセックスは、男女にとってもっとも平等であるべきもの


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――浜野さんが映画を通して女性たちに伝えたいことってどんなことですか?

私はライフワークにしていることが2つあるんですが、その1つは「"性=愛"をぶったぎること」で、もう1つは「セックスを女の手に取り戻すこと」。これまでのどの作品にもこの2つを反映させています。

ちょっと話がそれるんですけど、こないだ表参道歩いてたら、後ろから若い男女の声が聞こえてきたんです。男の子が「昼飯ナニ食う?」って女の子に尋ねてるんですけど、その答えが「なんでもいい。●●ちゃんが好きなものでいいよ」だったんで、私、思わず後ろ振り返って「てめえの食うもんくらいてめえで決めろ!」って怒鳴りつけちゃったんですよ(笑)

そういう女の子って、その彼氏とセックスしたって、嫌われたくないから喘ぐ芝居するんですよ。気持ちよくもなんともないのにイッたフリをするわけ。これじゃあ男と女はセックスにおいて永久に平等にならないですよ。

若い子に話す機会があるときなんかは、私はいつも「セックスこそ男女共同参画が大事なんだ!」って言ってるんです。だって人が裸になるってことは一番平等じゃなくちゃならないわけだから。肉体だけじゃなく心も裸にならなくちゃ。

男だけが気持ちいいのも、女だけが気持ちいいのもダメ。女性も積極的に、どうされると気持ちがいいかを言葉にして相手に伝えることが大切だし、それに応えてくれない男だとか、挙句の果てにAVに影響されて顔にぶっかけるような男なんか、とっとと別れるべき。

愛っていうのはお互いがお互いを認め合うことなんだから、そこで差別があっちゃいけないじゃない? 諸悪の根源は「愛してるから」「嫌われたくないから」って愛と性をイコールで結んじゃうことですよ。

セックスなんて気持ちよけりゃいいもんなんだから、女性だって、もっと自分の身体や快感に興味を持って開発することが大事。バイブレーターだって、今は女性が女性の身体のことを考えて作ったものがいっぱいあるんだから、一人一個は持っておくのがいいんじゃない?

一昔前は男性が作ったものしかなかったから、「大きけりゃ気持ちいいんだろ」って感じでデカクてカタクて真珠がゴロゴロみたいな形のしょうもないものもあったけど(笑) 今は本当に種類も機能も豊富にそろってますよ。

――浜野さんご自身もお持ちですか?

もちろんです。「イケるかどうか」って健康と体調のバロメーターでもあるんですよ。体調が悪かったらセックスしてもイケないことってあるでしょ? だから、「今日の仕事は張りきって挑むぞ!」なんて日は、私は朝起きぬけに使ったりもしますよ。それでちゃんとイケると「よっしゃー! 今日も元気にがんばれるぞー!」みたいなね(笑)

――日々、そうやって自分の身体と向き合っていると、男性とベッドをともにするときも一段と楽しめますね。

長い日本の歴史の中で、女性たちは男のために股を開くことを当たり前のように押しつけられてきたと思うんですが、女性だって欲情していいんだし、自分の快感のために男性器だって使っていいんです。

「性を女の手に取り戻す」っていうのはつまり、そういうことを女性たちにしっかりと伝えていくってことなんです。

高齢者だって存分に性を楽しむべき


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――高齢者の性を描いた『百合祭』にも、その想いは反映されていますね。

『百合祭』は、吉行和子さんやミッキーカーチスさんなどの錚々たるキャストに出演していただいた一般映画なので、資金を集めるためのプロデューサー探しから始めました。しかしどこにいっても返ってくるのは「ばばあのセックスなんて誰が見たがるんだ」の冷たい言葉。

仕方なく自分でなんとかすべくコツコツお金を貯めたんですけど、完成したら完成したで、今度は同じ理由で映画上映を断ってくるところが続出。

日本映画のデータバンクって、関東4県のどこかでロードショー上映されないと、その年の映画としてカウントされないんですけど、2001年に作った『百合祭』は3年後に下北沢の小さな映画館で上映されるまでカウントされなかったんで、2004年の作品になっているんです。

それで、その3年の間、何をしていたかというと、海外を回っていたんです。うれしいことに海外で非常に高く評価されて、映画祭でも3つグランプリいただいたばかりか、今なお上映が続いていて、現時点で、43カ国58都市で上映されているんです。


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そうした評価のおかげで逆輸入されて日本に戻ってきてるわけですけど、しみじみこの作品を作ってよかったと思うことに、観てくれた70~80代の女性たちから「私もこう生きなくちゃって思った」と声を掛けていただいたんです。中には、この作品がきっかけで恋人を作り、週一でラブホテルに通ってるっていう80代女性もいるくらい(笑)

そしてもう一つよかったことは、10代の若者や大学生から、「お袋のセックスなんて想像しただけで気持ち悪いし、ましてやばあちゃんのセックスなんて考えられないと思ってたけど、これを観て、お袋もばあちゃんも一人の女性だっていうことがよく分かった」と言ってもらえたことです。

――映画の登場人物たちのように、女性たちがもっと性を楽しむためのアドバイスはありますか?

60歳、70歳を超えた女性たちには社会的な刷り込みがあると思うんです。彼女たちが20代の頃は女性歌手が「あなた好みの女になりたい」って歌っていたし、25歳まで結婚しなかったら「売れ残りのクリスマスケーキだ」とか「賞味期限切れの弁当だ」とか言われてきたわけですよ。

つまり、女は結婚して夫に尽くして子どもを産んで育てるものだ、っていう観念をずっと押しつけられてきたということ。その雁字搦めの鎖をどう解き放つかが課題ですよね。

例えば旦那さんが亡くなって一人身になった高齢女性なら、もはや妊娠の心配もないわけですから(笑)、性と愛とを切り離して考えるのもいいと思うんです。

残りの人生を心から楽しんで生きるために、人と触れ合ってスキンシップすることはとっても大切。セックスはしてもしなくてもいいですけど、したければどんどんすべき。

だって、年を取ることは自由になれるということなんですから。残りの人生をどれだけ豊かに生きることができるかは自分次第。まったく新しい人間関係を築くのもいいし、年を取ったからこそできる選択に対して躊躇しないでほしいですね。

女性の手に性を取り戻したい


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――いくつになっても性に対して積極的だと生涯元気でいられそうですね。

『百合祭』を観てくださった当時の各務原市の市長が、市内の老人ホームで実際に起こったおもしろい話を教えてくれたことがありました。職員の女性が、ある日、入居者のおばあさんたちに口紅をプレゼントしたらしいんです。

するとおばあさんたちは気分が明るくなって、それまで静まり返っていたロビーに出てきて、みんなで会話に花を咲かせるようになったというんです。さらに、それを見たおじいさんたちもわらわらと部屋から出てきてロビーに集まり始めて、老人ホームが一気に活気づいたんだとか。

それで、更に元気にしようと施設長の提案で、ホーム内の風呂を混浴にしたことがあったそうなんですが、それによって、寝たきりで下の世話まで必要としていたおじいさんが、職員に両脇を抱えられながら風呂場まで自分の足で歩いていくようになったっていうんです。

といってもおばあさんたちは「混欲なんて冗談じゃない」ってご立腹だったそうですけどね(笑)

――高齢者の性に対して、周囲もさまざまな取り組みを提案・実践しているところが微笑ましいですね。

そうなんです。そういう風に性の問題を社会全体で考えていくことって非常に大切だと思うんです。その中で私にできることはもちろん、映画を作ることで、女性たちが自らの性を取り戻せるように応援することです。

この10月にクランクインする映画は、旦那のDVに悩む女性が女性と逃避行の旅に出るっていうストーリーなんですけど、一人でも多くの男性客が、この作品を観てDVはよくないことなんだという正しい認識を持ってくれたらうれしいですね。つまり、女性を応援すると同時に、男の教育も行っていきたいんです。

それと、衰退していく一方の業界で、最後のピンク映画を撮ることも一つの目標ですね。ピンク映画って今や衰退産業で、80年代には250館くらいあった成人映画館が、今では50館くらいしかないんです。

『Shall we ダンス?』の周防監督、『おくりびと』の滝田監督、役者なら大杉蓮さんのように、ピンク映画を足がかりにして有名になっていった人たちは、その後、こっちに戻ってこないんです。

だけど私は、ずっとピンク映画の監督でいたいんです。デビュー作では「女の名前だと客が興奮しないから男の偽名を使え」なんて言われたこともありましたが、今では、ピンク映画界の生き字引じゃないけど、私より長く撮り続けてる人も、私より多くの作品を撮ってる人もいませんからね。

女が排他的に扱われた時代から逆転する現象が起こっちゃってるわけです。だからこそ、最後のピンク映画は私に撮らせろ! と(笑)

これから先も、「●●ちゃんが食べたいものでいいよ」なんて言ってるおねえちゃんがいる限り、「違うだろ!」って言うためにも、ずっと撮り続けたいですね。

【浜野佐知 Profile】
映画監督。1968年から独立系の映画製作プロダクション助監督として映画作りに携わる。1971年、ピンク映画で監督デビュー。1984年、映画製作会社・株式会社旦々舎創設。以降、監督・プロデューサーを兼任し、女性の視点から「性」を描くことをテーマに約400本の作品を発表している。また、『第七官界彷徨―尾崎翠を探して』『百合祭』『こほろぎ嬢』『百合子、ダスヴィダーニヤ』を自主制作して、百合ダス2013年、第29回リュブリャナ国際G&L映画祭(スロヴェニア)で【ピンク・ドラゴン賞】(審査員賞)を受賞。2014年6月、初のデジタル作品『Body Trouble』(R-15)完成。

 

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松本玲子

Written by 松本玲子

各種雑誌、書籍、web媒体で編集者・ライターとして活動する傍ら、TVCMナレーションやCMソング歌唱、音楽制作なども手掛けている。また、プログレッシブ・ロックバンドswaragaのボーカルとしても活動中。
松本玲子

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