「この世に生まれたがっているもの」を見付けて、仏教界、そして社会を変えていきたい【松本紹圭INTERVIEW】


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前例がないものに形を与え、世の中を魅了したり人々に充足感をもたらしたりすることは容易ではない。クリエイターやプランナーに限らず、誰しもそれを痛感した経験はあるはず。ビジネスの場のみならず、遡って学園祭なんかでも。

果たして、独創的な発想で改革を起こし続けている人にはどのような資質が備わっているのか。

超宗派仏教徒のwebサイト「彼岸寺」の設立、お寺カフェ「神谷町オープンテラス」の運営などで注目を集め、近年では、お寺を次世代に存続・発展させるために必要な方法論や「寺」業計画の策定法を学べる「未来の住職塾」代表としてもご活躍の松本紹圭(しょうけい)さんに話を伺った。

お寺のマネジメントについて学べる学校を作りたかった

――「未来の住職塾」はこの4月に第四期を迎えられるそうですが、そもそもこの塾をはじめたきっかけはなんだったのでしょう?

2010年に出版した『東大卒僧侶の「お坊さん革命」お寺は最高のエンタメ発信地』(講談社+α新書)の中で、いずれは住職の学校を作りたいっていうことを話したのが最初ですね。当時はまだアイディアの段階でしたけど。

私は2003年に大学を卒業してすぐ僧侶になったんですけど、お寺の跡継ぎではなかったので、まずはお寺に弟子入りしたんです。それで、入門したお寺の住職のもと、法事だったりお葬式だったりといったことをお手伝いしながら勉強させていただきました。

ちなみに、よく「僧侶と住職はどう違うんですか?」と訊かれるので、それについて先に説明しますと、僧侶というのは、日本においては主として各宗派の本山(=中心の寺院)から僧侶として認められた人を指しますが、「僧侶イコール住職」ではありません。住職は各お寺に一人のみで、僧侶であるだけでなく、お寺の代表役員であり、お寺の運営全般に責任を持っている人のことです。

話が戻りますけど、一般的に現代ではお坊さんになる人の多くは、お寺に生まれて世襲によって僧侶への道を進み、ゆくゆくは住職になっていきます。その過程において仏教の勉強をする場所はたくさんありますが、住職、お寺の運営に責任を持つ立場の人間として必要なことを学べる場所は、仏教界の中になかったんです

でもそれってすごく大事な学びのテーマじゃないですか? それに気付いたとき、そうした学びの場を作るための知識やスキルを得たいと考えて、MBA取得を目指したんです(※その後、2010年にインドのIndian School of BusinessでMBA取得)

社会の変化にともない、お寺に求められることも変わってきた

――そこで得たものを礎に、『未来の住職塾』をはじめられた、と。

そうですね。既に住職をやっている人、これから住職になる人、そして住職とともにお寺を支える人が、お寺の運営について学べる場所を作りたくて。これまで住職という立場の人は、マネジメントについて学ぶ機会がほとんどなかったというか、学ぶほどでもなかったんです。

なぜかというと、少なくともここ数十年という単位においては、お寺の基本的な在り方は変わってないから。ある程度社会が安定している時代においては、地域社会の地縁・血縁という強固な基盤に支えられて存続しているお寺は、特別新しい施策を講じなくても、それまでやってきたことを踏襲していれば大丈夫だったんです。マネジメントということに関していえば、唯一といってもいいお手本は師僧。つまり、おやじの背中を見て学ぶしかなかったんです。もちろんその人なりに工夫を凝らしたりといったことはあっても、基本的には父から子へ受け継ぐものでした。

――だけどこれからの時代はそれではいけない、ということでしょうか。

これだけ社会の変化が速く、かつ激しくなると、お寺の運営基盤であった地域社会の地縁・血縁が崩れて、そこに暮らしている人たちの「イエ」意識も薄れてきます。そうなると、お寺に対して「人と人との絆を強め、地域を活性化させる交流の場所になってほしい」と期待する人も増えるでしょうし、実際、心の寄り処であることを望む声もあちこちで聞かれるようになりました。家族のお墓があるとか仏教の話を聴けるとかはもちろん、特別な理由はなくても、自分を内省したいときなんかにふらっと立ち寄れる場所であってほしいとか。

そうした声に応えるためには、今までの在り方からお寺を変えていかないといけません。こうした現状に対して危機感を覚えたことで、まずは自分自身の「お寺っていうのはこういうもんだ」という固定概念を打ち破りたいと、きっかけを求めて『未来の住職塾』に入学する方も多いですね。

――他にはどういう動機で受講を検討される方がいますか?

現在、日本には7万を超えるお寺があるんですけど、自分のお寺がこれからやろうとしていることの参考となる事例を知りたくて入学される方もいますね。それと、ここで得られるもう一つの重要なことは、「志をともにする仲間ができる」ということ。今までお寺の世界って、同じ宗派・同じ地域の人と交流することがほとんどで、違う背景の人と交流する機会がとても少なかったんです。でも、世の中には様々なお寺や事例があるし、本当に人間的にすばらしいと思える住職も大勢おられます。宗派を超えていろんな人と出会い、いろんな考え方に触れることができるっていうのは魅力ですよね。

死者もお寺のステークホルダー

――お寺のマネジメントに関して、全国の住職はどんな悩みを抱えていますか?

お寺を続けることへの重責は誰しも感じていると思います。経済的にお寺が立ち行かなくなったら続けたくても続けられなくなってしまいますし、「自分の代までは大丈夫そうだけど次の代まで維持できるだろうか」という不安を持っている人もいるんじゃないでしょうか。多くのお寺が何代も続いていて、400年、500年...っていう長い歴史を持つところもざらにあるわけです。そのお寺の運営に責任を持つことは、自分が住職をしている20年、30年っていうスパンじゃなくて、何百年先にまでつないでいくっていうことですから。お寺だけじゃなくて、老舗企業なんかもそうですよね。

企業とか組織でもステークホルダーについて考えることがあると思いますけど、お寺のステークホルダーとなると、生きている人だけじゃなくて、膨大な数の、お墓にいる亡くなった方たちも含まれるので責任重大。生者も死者も迷わせるわけにはいかないですから。

後は、自分の後継者をいかにして育てるかということに対して課題意識を持っている人も多いですね。

これからのお坊さんは、宗教リテラシーについてもきちんと学ぶことが大切

――1月にダボス会議に出席されたそうですが、そこでも、今後の活動に活かせそうなヒントは得られましたか?

ダボスではなるべく対話の時間を確保して、いろんな異なる宗教の人と話をしました。イスラム教の人もいれば、キリスト教、ユダヤ教、仏教の人ももちろんいて。その経験から改めて思ったのは、これまでは宗教者(お坊さん)に対する宗教教育って、「親鸞さんの教えはこうですよ」という形で、自分のところの宗派の教えだけに目を向けがちでしたが、これからはもっと広い視点を持って「宗教とは何か」について語れるようになることが必要ということです。

今、世の中において宗教がかなり重要な要素を占めてますよね。よいニュースもあれば悪いニュースもあって、背景を知らなければなぜそんなことが起きるのか理解できない話題もたくさんあるし、人によっては「宗教なんて要らない」っていう気持ちになったり、特定の宗教それ自体を悪だととらえてしまったりするでしょう。

だからこそ、お坊さんも宗教に関わる一人の人間として、宗教とは何なのか、宗教現象とはどういうものなのか、なぜ宗教が人の心に変化を起こすのかをきちんと考え、それを人に伝えていけるようにならなきゃって思うんです。相手を特定の宗教に改宗させるということではなくて、例えば、異なる思想やスタンスの人が大勢関わることで一つの社会を作っているから相手を理解することが大切だという考え方もそうですが、宗教者は今後、宗教リテラシーの教育に力を注ぐ必要があるなと。

語学力よりも中身で勝負せよ!

――国際的な場では英語でのコミュニケーションが必要になってきますが、語学はどのようにして修得されたのですか?

私はもともと完全ドメスティックで、海外経験というとインドに留学した一年しかないんですね。普段お寺にいると全くといっていいほど英語を使いませんし。だから、ダボス期間中に久しぶりに英語に触れて、がんばって話しているうちに段々思いだしてきたくらい。

日本人って、英語が苦手な人が多い国だと思うんですけど、それが原因で国際会議なんかの場に出ていける人が限られてるのはすごくもったいないですよね。まず、英語をしゃべれるかしゃべれないかでふるいにかけられて、その中で誰を選ぶかってなるから。でも、たとえどんなに英語がぺらぺらで日本人の友だちから一目置かれる存在であったとしても、しゃべってる内容が薄っぺらじゃ全然ダメ。通訳をつけてもいいから、話すべき中身がある人が選ばれるべきだと思いますね。もちろん、話せないよりかは話せたほうがいいでしょうけど、語学力がないから外に出ていけないなんて思う必要はないと思いますね。中身勝負でいいんじゃないですか。

宇宙が待ち望んでいるものを探すとうまくいく

――では、『未来の住職塾』など、唯一無二のアイディアを具現化するためのコツは?

何かを形にしようとするときの動機が、「どれだけ自分自身の利益のためじゃなく、利他のためであるか」って結構重要じゃないですかね。精神論で言ってるんじゃなくて、自分の小さな殻を破って思ってもみなかったアイディアを生むための方法論として。「とにかく成功するために起業したい」って人も中にはいると思うんですけど、多分あんまりうまくいかない気がするんですよ。「自分は何をしたいか、何を手に入れたいか」よりも、「この世に生まれたがってるものってなんだろう?」って考えることからスタートして、それを生まれさせてあげればいいんじゃないでしょうか。

――なかなか難しいですよね、それって。

そうですね(笑) 自分ではなく相手、大げさに言うなら「宇宙」が待ち望んでいるものを探せばいいんじゃないですかね。仏教はまさに、「自分」という幻想から人間を自由にするためのものなんです。仏教って、仏の教えであると同時に、人が仏になるための教えですから。つまり、人のままじゃだめだっていってるんですね。とはいえ人が人でないものにそんな簡単にはなれないでしょうけど、でも、そういう努力を続けて、そこに希望を見出すということです。

人が人である限り、私だってそうですけど、自分中心に考える習慣ってなかなか捨てられないですよね。思い通りにならずにカッとしてしまうこともありますし。でも、その習慣を抱きながら生きる自分を相対化して見ることができるようになれば、あらゆる人が自分と同じく「自分が一番かわいい」という自己中心性を持っていることを理解できます。相手を理解する余裕が生まれれば、「じゃあ今日は宇宙の目線からはじめてみるか」というふうに視点を自由に動かせるようになってくるはずですし、みんなが求めてるようなアイディアも自然と浮かんでくるかもしれませんね。

【松本紹圭Profile】

東京大学文学部哲学科卒業後、浄土真宗本願寺派光明寺僧侶となる。一般社団法人お寺の未来代表理事。蓮花寺佛教研究所研究員。米日財団リーダーシッププログラムフェロー。

超宗派仏教徒のwebサイト『彼岸寺』を設立し、お寺の音楽会「誰そ彼」やお寺カフェ「神谷町オープンテラス」を運営。

2010年、ロータリー財団国際親善奨学生としてインド留学、Indian School of BusinessにてMBA取得。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」開講。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出され、2015年には同年次総会に参加。

著書に『お寺の教科書ー未来の住職塾が開く、これからのお寺の100年ー』など。

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松本玲子

Written by 松本玲子

各種雑誌、書籍、web媒体で編集者・ライターとして活動する傍ら、TVCMナレーションやCMソング歌唱、音楽制作なども手掛けている。また、プログレッシブ・ロックバンドswaragaのボーカルとしても活動中。
松本玲子

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