漫画黄金期「ニューウェーブ」をインターネット上で蘇らせたい【竹熊健太郎INTERVIEW】


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本が売れない時代に突入したと言われて久しい。情報量においても鮮度においてもインターネットが優勢となった今、いかにして自らの名を売るかに苦心しているクリエイターや作家、またはその志望者は多いだろう。

新しい媒体、そして新しい時代の担い手である編集者は、こうしたメディアの変遷をどう捉えているのか。編集長を務める無料オンラインコミックマガジン『電脳マヴォ』を介して、新しい才能を世に送り続けている編集家・竹熊健太郎氏に話を伺った。

出版社に入れないのなら、自分でメディアを作るしかない

――『サルでも描けるまんが教室』(相原コージ氏との共著)を筆頭に、紙のメディアで数々の作品を発表されてきた竹熊さんが、オンラインマガジンで、しかも新人の作品を発表するようになったのはなぜだったのでしょう?

きっかけは、多摩美術大学で講師を務めるようになったことです。教壇に立った最初の年、人数制限をかけてなかったんで受講生が700人にものぼったんです。それで、全員の課題を採点するのはとても無理だと思い、レポートじゃなく漫画を描かせたんです。

そしたら、数百人のうち1人2人は明らかにいいのがいるんですよ。予想を遥かに上回る才能! それもかなりユニークな。それで、その才能を世に出すにはどうしたらいいかを考えました。その時からオンラインマガジンの構想はあったんですけど、2003年当時だと、まだ時代が早過ぎたんです。そこでひとまず紙のメディアにしようと思い、『コミックマヴォ』っていう同人誌を作りました。それが2008年なんですけど、そこから5号作った後、電子雑誌『電脳マヴォ』に切り替えたんです。

――構想自体はかなり早くからあったんですね。

僕は大学に行ってないんです。学歴がないから、出版社に入ることははなから断念していて、自分で出版社を作るしかないなって思ってました。とはいえ出版社を作るっていうのは、そんなに簡単なことじゃないんですよ。作りたいっていう想いはずっと持ち続けていたものの、現実的にはかなり難易度が高く、理想を形にできない日々を送っていました。

ところが、2010年前後からインターネットが著しく発達して、様々なオンラインメディアが誕生しはじめました。そして遂に、2012年1月24日、『電脳マヴォ』を立ち上げることになったんです。

30年前なら余裕でデビューできた人が、日の目を見ることがないのが現在

――立ち上げはスムーズにいきましたか?

そうですね。まず、優秀なプログラマーに出会えたことが大きかったですけど、それに加えて運も良かったんですよ。その頃には、多摩美に続いて京都精華大学でも教えるようになってたんで、プロとしても十分やっていけるレベルの漫画家のタマゴともたくさん出会えていたんです。同時に、漫画業界全体が落ち込んできていたことも、マヴォにとっては幸運だったのかもしれません。本来なら紙のメディアでデビューできてるはずの子たちに描いてもらうことができたわけですから。

業界が冷え込んでると、売れる保障、あるいは見込みがないとまずデビューできないんですよ。これがね、ニューウェーブって言われてた時代だったらなんのことはなくデビューできてたはずなんです。当時は、売れる売れないはともかくとして、ユニークであればデビューできたし、またそういった作品に対して一定の需要があったんです。今とは全然違いますね。逆にいえば、だからマヴォができたっていうね。

――ニューウェーブってどんな時代だったんですか?

ニューウェーブは、77年から82年頃にかけての約5年間を指すんですけど、この時期には、大友克洋さん、高野文子さん、諸星大二郎さんなんかの一群の作家が数多く輩出されたと同時に、彼らの作品が掲載される雑誌も相次いで創刊されたんですよ。『マンガ奇想天外』とか『Peke』とかね。

そのちょっと前には、『ララ』とか『花とゆめ』『少女コミック』なんかが流行して、萩尾望都さんや竹宮恵子さんに人気が集中する少女漫画ブームがあったんですけど、ニューウェーブに移行したことで、ジェンダーの境がなくなったんです。男性作家が増えただけでなく、男性が少女漫画を描くようになったり、逆に女性作家が少女漫画以外を描くようになったり。この時代は、僕にとって漫画界の黄金時代でしたね。

――ニューウェーブはなぜ衰退したのでしょう?

80年代に入ったら、ヤンジャンとかヤンマガがニューウェーブの作家を引き抜くようになって、結果的にマイナーな雑誌が大手に吸収されちゃったんですよ。本当に短い命でした。そうした経緯もあり、僕がメディアを作りたい欲望の根底には、「あだ花のように咲いたニューウェーブ雑誌を復活させるんだ!」という強い思いが存在するんです。

オンラインメディアで儲けるのは大変

――その一環として『電脳マヴォ』を創刊なさったわけですが、実際に運営してみて、みえてきたメリット、そして課題はありますか?

電子雑誌の一番の利点は、運営にお金がかからないこと。これは非常に大きなメリットです。とにかくどれだけコストをかけずに作るかってことが、至上命題なんで、最近では作家と顔を合わせる席を設けることさえなくなりました。持ち込みもすべてメールです。メールで作品送ってもらって、採用だったら作家に連絡して、「いついつ載っけます」って。運営費もバカみたいにかかってないですから。とはいっても、月々20万円くらいは持ち出してますけど。

――内訳を教えてください。

ほとんどが、編集者やデザイナーのギャランティです。でも、本当に薄謝ですよ。よくこの値段でやってくれるな、ってくらいの。今、オンラインメディアって、最低限プログラマーがいれば立ち上げること自体はそんなに難しくないと思うんですけど、頻繁に更新するとなるとそれなりに手間がかかりますからね。

課題は、どうやったらお金が入ってくるかということ。現状、ほとんど入ってないですから。広告は入れてますけど、せいぜい月に1万とか2万で、はっきりいって焼け石に水。もちろん、利潤を出すための策は常に考えてます。その一つがタイアップ漫画です。これは今春スタートする予定ですね。マヴォが紹介した作家が、クライアントが宣伝したい商品・サービスを盛り込んだ作品を描くんです。

――それは画期的。ますますPVが伸びそうですね。

『電脳マヴォ』は現状、月30万くらいのPVなんですけど、100万超えないとまともな収入になんないですからね。そういう意味では道半ばですが、今年で4年目に突入するんで、もうちょっとアクセスを増やすために色々仕掛けていかないといけないなと思ってますよ。

――アニメーション作品も掲載されていますが、そうした試みもPV数アップにつながりそうですよね。

ネットは動画も載せられるからこそ、可能性がある媒体だと思うんですよね。あとは強力なキラーコンテンツがあればだいぶ違うんですよ。マヴォでいうと『家族喧嘩』。これは2ちゃんねるで評判になってまとめサイトができて、ネット上で大量にばらまかれてるんですよ。

これからは兼業作家も注目される時代

――「2ちゃんねる」や「まとめサイト」って、やっぱりバズるきっかけになってますか?

まとめられるとすごく宣伝になりますよね。あれでアクセス殺到しますから。殺到によって、自分がおもしろいと思った作品を多くの人が読んでおもしろがってくれるのって、たまんないですよ。

――まとめられたことで火がつけば、兼業作家が一躍有名になることだってあり得ますね。

作品描いて発表するだけだったら今ほど容易な時代はないわけで、pixivとかでも毎日のように大量に作品が発表されてますもんね。あるいはコミティアで作品を販売している人もたくさんいるし。これってかつてのニューウェーブにちょっと近いんじゃないかなと。でも、今はうまい人が必ずしもプロ思考とは限らない。これが今の特徴かなと思うんですよね。逆にいうと、プロ作家になることがあまりおいしくないわけです。ギャランティもよくないし、描きたいものが描けなくなる可能性だってあるわけだから。

でも、同人誌での発表となると、多くの人に読んでもらうなんてまず無理。そのジレンマを抱えた人たちが、マヴォに作品が掲載されることで、数千人、数万人の読者を獲得することになること自体、これからの漫画家の形の一つともいえると思うんです。そんな新時代の作家の注目度アップのためにも、これからもインターネットの可能性を模索し続けたいですね。

【竹熊健太郎Profile】

'60年、東京都三鷹市生まれ。『電脳マヴォ』編集長。京都精華大学マンガ学部教授。1980年より、ライター、編集者、漫画原作者として活動をスタートさせる。

漫画原作に、『サルでも描けるまんが教室』(ビッグコミックスピリッツ)、『ファミ通のアレ(仮題)』(ファミ通)、『マリオの大冒険』(NINTENDO POWER)。

著書に、『篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝』(河出文庫)、『私とハルマゲドン おたく宗教としてのオウム真理教』(太田出版)、『マンガ原稿料はなぜ安いのか? 竹熊漫談』(イーストプレス)などがある。

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松本玲子

Written by 松本玲子

各種雑誌、書籍、web媒体で編集者・ライターとして活動する傍ら、TVCMナレーションやCMソング歌唱、音楽制作なども手掛けている。また、プログレッシブ・ロックバンドswaragaのボーカルとしても活動中。
松本玲子

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各種雑誌、書籍、web媒体で編集者・ライターとして活動する傍ら、TVCMナレーションやCMソング歌唱、音楽制作なども手掛けている。また、プログレッシブ・ロックバンドswaragaのボーカルとしても活動中。

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